わたしの名は、水。いつからここにいるのかは定かではないけれど、蒸溜所ができるよりもはるか昔からここにいるのだけはたしか。茶人、千利休がわたしを気に入り茶室までつくったのはいつの時代だったか。

ただ時間のみが、澄んだ麦汁をつくる。

わたしの話の前に、もうひとつの大事な原料、
麦についても話しておく。ウイスキーの原料には大麦麦芽、中でも、
でんぷん質の多い二条大麦が使われている。
砕いた麦芽(二条大麦を発芽させて乾燥させたもの)と
温めた仕込水とを混ぜあわせてろ過すると麦汁になるのだけれど、
ここでは、4〜6時間かけて丁寧に仕込むことで、
濁りのない澄んだ麦汁をつくっている。
澄んだ麦汁は、果実のように香り高く、
華やかで伸びの良いウイスキーのベースとなる。

大切なのは、じっくりと時間をかけること。
急いでいいことなんて何もない。

茶人に愛され、ウイスキーに愛されて。

そもそもウイスキーをつくるのに、
水はとても重要だと言われている。
ここ山崎に流れる水は、
軟水の中でも比較的硬度が高い良質な水
そのおかげで、複雑な風味や
重厚感のある原酒をつくることができる。

茶人、千利休が惚れこんで
わざわざ「待庵」という茶室を構えたほど。
日本の名水百選にも選ばれており、
「離宮の水」として
今でも地元の人に愛されている。
とはいえそんなことは、
わたしにとって大した問題じゃない。
わたしはここで、時の流れとともに、
流れつづける。
ただそれだけのこと。